【僕と君と鋭いナイフ】

 人間の「勘(かん)」というものは、何かしら当たる事が多い。それが必然か、はたまた偶然なのかはよく分からない。ただ、『当たる事が多い』という事だけだ。単純すぎる。
 鏡の前に立ち、自分の顔を覗き込む。どことなく、青白い気がした。もともと不健康そうな顔つきなんだ。今更どってことない。そして、まだ半分眠ったままの頭を無理矢理叩き起こし、脳裏に思い浮かんだ「悪い予感」について、考えを巡らしてみた。
 「悪い予感」―・・・・・・・・。一言で上手く表現する事はできないが、何かが引っかかる。その何かとは一体何なんだ?この、心のざわつきは一体―・・・?
「は・・・・どうせ勘だろ・・・・・。」
そう呟いてみて、なぜか息苦しくなる。加えて、気分も悪い。最悪な1日が、幕を開けたようだ。
 

【僕と君と鋭いナイフ】 ―小説―

 今日1日の授業が全て終わる。僕は、帰り支度をしている真っ最中だった。
「ねぇ、木村君。ちょっといい?」
誰かから名前を呼ばれ、後ろを振り向く。見覚えのある顔。僕は、必死に名前を思い出していた。
「・・・・金田?」
「・・・・・よく思い出せたわね。私と目も合わせた事もないのに。」
「興味なかったから。」
「じゃあ興味のある女の子の所は見てるんだ。」
「女になんか興味ない。」
「・・・・・・もしや、木村君て変わり者?」
「なんとでも言え。」
あきれて教室を出ようとする僕の腕を、力強く引っ張る金田。女のくせに、力はかなり強い。
「校風委員として『校内環境アンケート』の未提出者を、気安く下校させるワケにはいかないの。」
金田はそぅ言って、僕の目の前に「校内環境アンケート用紙」を突きつけた。そして、鉛筆を無理やり握らせる。
「ねぇ、木村君も早くお家に帰りたいでしょ?私だって早くお家に帰りたいの。だから、さっさと書いちゃって。たった5問でしょ??」
「・・・・・もし、書かないと言ったら?」
「絞め殺す。」
「はいはい・・・。書けばいいんでしょ?」
てきとうに記入し、金田に紙を押し付ける。そして、僕はそのまま教室を後にした。
 
 電車に揺られながら、最寄の駅で下車する。僕は駅の階段を下りながら、改札口の前に立っている、姉さんの姿をぼんやりと見つめていた。そして、声を掛ける。
「姉さんっ!」
「え・・・。あぁユウキっ!!」
驚く姉さんの表情は、少し暗い。
「・・・お出掛けですか?」
「まさか・・・。ユウキを待ってたのよ。」
姉さんが・・・僕の帰りを待っていた・・・?それは、初めての出来事だった。
「今までこんな事なかったけど。」
「ちょっとね・・・歩いて気分転換でもしようかと思って・・・。」
姉さんは笑った。実際のところ、本当に笑ったかどうかはよく分からないが・・・。
「今日の夕食は?」
「秋刀魚。秋らしいでしょ?スーパーで安売りしてたから。」
そんな会話をしながら家まで帰った僕と姉さん。なぜか、とても落ち着いた気分だった。
 

【僕と君と鋭いナイフ】

○最初に○
この続きとなる小説が、1部「未分類」のトコロに入っています。
それをご承知の上、お読みください。↓↓





 お風呂上り、リビングでくつろぐ僕の手には「理科の教科書完全ガイドブック」と「蛍光ペン」が握られていた。もうすぐ中間テストだ。こういった何気ない時間を有効に使って損はない。
「ユウキ、お風呂場の電気つけっぱなしよ。」
姉さんの声を背に受けながら、僕は廊下を歩く。もちろん両手には「理科の教科書完全ガイドブック」と「蛍光ペン」を持ったままだ。おかげで、下をよく見ていなかったせいか、棚の端に小指をぶつけてしまった。軽くうめく。その声を聞きつけたのか、姉さんがリビングから顔を見せた。
「ちょっと・・・。大丈夫?」
「まぁ・・・・。これぐらい・・・平気だよ。」
「気をつけなさいよ?」
「・・・・うん。」
寒く薄暗い廊下に、光の筋が浮かび上がっている。僕は脱衣所に足を踏み入れ、そして、お風呂場の電気を消した。暗闇に取り残される。僕は、その場にしゃがみこんだ。心地よい・・・。この暗さが丁度いい。体が馴染んでいる。そして、僕は目を閉じた。
「・・・・・・この世界にいる僕の理解者なんて・・・。」
急に悲しくなった。まるで、たった1人、この暗い世界に置いて行かれた様な・・・そんな寂しさが込み上げてくる・・・。

あぁそうだ・・・。結局、暗闇だって―・・・・・・
僕を受け入れてはくれない―・・・・・・

 その日、僕は次の日の朝方までテスト勉強をしていた。不思議な事に、眠くはならなかった。むしろ、冴えている。カーテンの隙間から入り込む朝日。僕は机に突っ伏したままの格好で、朝を迎えたのだ。初めての体験だった。

【2】

 「おい、どうしたんだよ?ユウキ・・・。顔色が悪いぞ?」
昼休み。教室の隅で昼食を食べている僕等4人。ようするに、それはいつもの光景。
「え?あぁ・・・ちょっとな・・・。」
「どうせ夜中まで勉強してたんだろ?」
「うん・・・・まぁ・・・・そのような気がするけど・・・。」
「さっすがユウキッ!!やっぱり学年で3位の学力のある人間は違うねっ!!」
「そういう俺らだってバカじゃねーもんなぁ??」
「まぁこんな俺らも県内でトップの高校に通ってるんだし・・・なぁ?ユウキ??」
「まぁ・・・・ね。」
テキトウに返事をし、視線を教室の中心に向ける。楽しそうに笑いあうクラスメート。そして、輪の中心にいるのは、もちろん「山崎 リオ」だ。
「おいおい・・・・。まさかユウキも?」
「え・・・・?」
「お前さぁ・・・山崎の事が好きなんだろう??」
「はぁっ!?何で僕が・・・。」
「だって・・・いっつも山崎のほぅ見てるじゃんっ。なぁ?」
僕は、大きなため息をつく。僕が興味あるのは「山崎本人」ではなく、「山崎の手首」だ。山崎本人になんてなんの興味もない。僕は、とりあえずみんなに「あんまりにも山崎の周りがにぎやかだから、みんなの会話に興味をもった」という理由で納得させておいた。








 

【僕と君と鋭いナイフ】 ―小説―

 昔から「友達」が少なかった僕。つくろうとも思わなかったし、誰も僕と友達になろうと思う人間もいない。ただ、極たまに話しかけてくれる親切な人間も存在した。しかし、大半の時間、僕は1人で暇な時間をもてあまし、読書をしたり、今のように「身近な人間にリストカット症候群(リストカットシンドローム)の者がいたとしたら」という妄想に思い耽っていたのだ。それは、1人でいる「孤独さ」をかき消すために生み出した『遊び』といっても過言ではなかった。

ようするに、僕は寂しい人間なんだ。
人の温かみや優しさも知らない、

最低な人間だ―・・・・・。

 そんな事を考えながら、僕は明かりの点いていない、薄暗い玄関に足を踏み入れた。かすかに聴こえるテレビの音。それは、リビングに人間のいる証拠だ。僕は、そっとドアを開けた。
「ただいま。」
返事は・・・ない。でも、そこに人はいた。女性だ。テレビをつけっ放しにしたままソファーで眠っている。眼の下に広がる、薄いクマ。そして、白髪交じりの長めの髪。疲れきった表情のまま、まぶたを下ろした格好のその人間を、僕はどうでもいいような感情を抱きながら、声を掛けた。
「母さん、こんな所で寝てしまうなんて、一体どうしたんだい?」
「・・・・・ユウキ?」
まどろんだ声。ようやく、自分の息子の存在に気づいたようだ。
「夕食は?姉さんはまだ、大学から帰って来てないんでしょ?」
「ナオミなら、さっき2階に上がっていったけど・・・。」
なんだ、知っているんじゃないか・・・。僕は、制服のネクタイを軽く緩め、上着をソファーの上にかぶせる。一呼吸おいてから、僕はキッチンに向かい、そして、夕食を作り始めた。
 

 校門まで、山崎と一緒に道を歩く。10月に入ったせいか、どことなく肌寒い。
「ねぇ、そういえばあなたっていつも電車で通学ているんでしょ?」
「そうだけど?」
「大変ね・・・。駅まで15分はかかるんじゃない?」
「さぁ・・・。」
てきとうに返事をし、押し黙る。冷たい風が山崎の髪をなびかせた。僕は無言のまま校門をぬける。そして、一瞬立ち止まり、反対の方向へ歩いてゆく山崎の後姿を見つめた。こんな風の中で、しっかり立っていられるのだろうか?そう思わせるほど、彼女は細く、弱弱しい姿をしているのだ。なぜか、とても心配だった。

 電車に乗り、数10分後にまた電車を降りた。最寄の駅に着いたときには、もうすでに辺りは暗く、人影もまばらで、異様に静かだった。
駅の改札口ですれ違った会社員の男を見る。猫背で、暗い表情をした顔。きっと、会社で何かあったのだろう。そう思うのが、当たり前な気がした。僕は考える。

もし、この男がリストカットをしていたとしたら・・・・。
そして、もしリストカットをしている事がばれてしまったら・・・・。

きっと、この男は周りの人間から軽蔑の眼差しをぶつけられるだろう。会社の同僚や先輩、後輩にまで「恐ろしい人間だ」と思われ、避けられるんだ。そのうち、この男は「死」への道を選択するに違いない。高いビルの上で靴を脱ぎ、眼下に広がる街を愛しく思う。

そして―・・・・・・・・・・

 僕は、考えるのを止めた。
 
プロフィール

Author:暗月 夜
月の裏側でひっそりと暮らしている。

『夜』が好きな孤独人。

この言葉、君に届いているのかな。

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